九州大学新キャンパス Kyushu University New Campus
新キャンパス計画キャンパスと周辺地域移転情報資料集
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資料集新キャンパス委員会による成果

新キャンパスマスタープラン(文系地区)造成案に伴う
埋蔵文化財の取扱いについて 平成13年1月26日

文化財ワーキンググループ
平成13年1月26日
 この度提示された新キャンパスマスタープラン(文系地区)は、谷部を盛土してキャンパスの主要部分を建造するという従来の案を変更し、丘陵部を削平してキャンパスの主要部分を造成するというものである。

 文系地区の埋蔵文化財調査はなお進行中であるが、現在調査中の第20次調査区からは、古代の役所跡であることを強く示唆する遺物・遺構が検出されており、高い学術的価値を有する遺跡である可能性は強い。来年度の調査分を総合して評価する必要があるとはいえ、何らかの保存・活用を考慮する必要が生じることは十分に想定される。そのため、このマスタープランにおいて、この地区に建築物を予定していない点は、遺跡の保存という観点からは評価されるものである。

 ところが、今回のプランでは、石ケ原丘陵に所在する古墳群、とりわけ6世紀代の前方後円墳である石ケ原古墳が造成部分に含まれており、このままでは破壊を余儀なくされることとなる。この古墳は、6世紀前半から中頃にかけてのものであり、石ケ元古墳群へと連続する首長墳として位置づけられる。古墳の重要性は試掘段階から主張されており、その保存が学界・市民からも要望されてきたが、平成9年7月30日の将来計画小委員会において、「キャンパスの造成にとって技術的に不可欠な位置にあることから、徹底調査のうえで記録保存とする」ことが了承された。

 しかし、平成10年5月26日に評議会決定された「新キャンパスの土地造成基本計画について」において、石ケ原古墳については造成対象としないこととなり、平成12年5月23日に将来計画小委員会において了承された「新キャンパス用地等における埋蔵文化財の取り扱いの基本的考え方」においても、「現在までのところⅠのケース(現状保存)の取り扱い」とされて、こんにちに至っている。したがって、学内的には記録保存と決定されてはいるものの、「基本計画」の公表に伴って、古墳は破壊されずにキャンパスの中に取り込まれるという学界・市民の理解を生むこととなった。

 さらに、第20次調査によって、古代における嶋郡の中枢部がキャンパス予定地に所在したことが解明されつつあることによって、石ケ原古墳から石ケ元古墳群へと連続する有力古墳が、後に古代の郡司層となる首長層の墳基として確認され、その学術的評価が以前にまして高まると考えられる。

 以上から、当面本学が対処すべき問題としては、以下の2点があげられよう。
① 石ケ原古墳の学術的評価が以前にもまして高くなることから、記録保存ではなく、何らかの保存・活用を考慮する必要があるのではないか。
② 平成10年の「基本計画」の策定によって生じた、学界・市民における「石ケ原古墳は保存」という理解と、今回のプランには齟齬があり、本学の社会的説明責任を問われることになりかねない。
 また、①に基づき学界・市民からも保存・活用の要望が出され、②によって批判を伴うことも予想される。
 本学においては、通常の「開発/保存」という二者択一の図式ではなく、キャンパスと埋蔵文化財を両立させ、それ自体がキャンパスの特長となるよう考慮すべきであるという立場から、国指定史跡などの行政的保存の場合を除いて、以下の四つのケースに分けて対処することを平成12年5月23日の将来計画小委員会において了承している。
  1. 現地をそのまま保存するか、学内外に展示公開するため復元・整備する。
  2. 土盛りなどによってキャンパスとして利用するが、遺構の部分については位置関係と構造を正確に復元して展示公開する。
  3. 土盛りなどによって、遺構を破壊しないかたちでキャンパスとして利用する。
  4. 記録保存した後造成し、キャンパスとして利用する。
 もちろん、石ケ原古墳が行政的に保存されることになればこれらのケースの対象外となり、再評価によってそのような事態となる可能性もなくはないと考えられるが、当面は学内的な対処を前提としておきたい。

 さて、これらのケースのうち、最も望ましいのはⅠのケースであるが、谷部を造成しないという今回のプランでは、キャンパスの用地確保がきわめて困難になるという事態を招くことになる。キャンパス用地を確保し、なお保存・活用するという対処として設定されたのはⅡであり、現物の遺構は地下に保存され、キャンパスと共生するかたちで設置された地上のレブリカ等で遺構の位置関係・構造を観察することが出来る。しかし、これは地下遺構の場合であり、古墳のように地上に露出している遺構は、造成時に削平され現物そのものが破壊されてしまう。つまり、仮にレブリカ等を設置したとしても、現物が破壊されるという点で、地下遺構におけるⅡのケースと根本的に異なるのである。

 Ⅲのケースも地下遺構にしか適用できないため、本学が今回のプランを実行するという選択をする限り、選択肢として残るのはⅣの記録保存ということになる。しかし、上記した①②から本学の社会的説明責任と学界・市民からの要望を考慮すると、何らかの保存・活用の方法を検討する必要があろう。したがって、キャンパスと共生するという前提の元に、現状保存に可能な限り近いかたちでの対処法を検討する必要があろう。すなわち、現状保存によって保存される、古墳の形状・内部構造、他の古墳等との位置関係、古墳からの眺望等を可能な限り再現しうる方法を検討すべきと考える。
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